2021年3月ごろから建設業界の中でも「木質系」と呼ばれる界隈では「ウッドショック」なる単語が飛び交うようになりました。
「木質系」とは建築物のうち、主に木造の建物を建てる工務店やその建物に使用される建材などを指します。
「ウッドショック」とは何ぞや?と言いますと、言葉のとおり「木」の「打撃」です。
2021年3月ごろを境に、急激に木を原料とする建設資材が手に入りにくくなりました。私たちが事態を把握するきっかけになったのが、2021年3月にあったスエズ運河の座礁事故です。北欧の木材を輸入する際、スエズを通り日本へ来ていたものが座礁事故により止まってしまったために、木材が入手しにくくなってしまったのがはじまりでした。
日本では建設資材の多くは海外からの輸入に頼っており、日本の厳格に定められた規格審査をクリアしたものしか国内の建物に利用できません。その規格を「J GRADE(ジェイ・グレード)」と言います。
中でも家の骨組にあたる躯体材は北欧やアメリカからの輸入がほとんどで、長年に渡り厳格な J GRADE による選別が行われてきました。にも関わらず安価な金額で輸入をし続けてきたのです。
昨今のコロナ禍は世界の人たちの行動に大きな影響を与え、在宅で仕事をする人が増えました。今まであまり関心のなかった自宅環境について考える人が多くなり、各国の低金利政策も相まってリフォームや新築工事の需要が大幅に増えるようになったのです。
原産地に近いところで、厳格な基準による選別もなく、配送に手間がかからない。原産地で作れば作る分だけすべて売れる。。。そんな構造が出来上がりました。また、北欧では作業員のストライキや山火事が発生したり、中国においても建設ラッシュが重なったことで、日本に向けて売るメリットと絶対数が少なくなっていきました。
そんな最中、引き金を引いてしまったのがコロナによる経済交流の停滞です。コンテナが中国1国に駐留するようになると深刻なコンテナ不足になり、ただでさえ日本に入りづらかったものがコンテナ数が減少していることで拍車をかけるようになったのです。
2021年11月現在、2x4の材料の供給状況はマシになりつつあるものの価格は下げ止まり。在来の材料は安定供給とは言い難い状態が続いており、価格も元の金額の2倍~3倍近くまでになっています。躯体を加工するプレカット工場各社は統一した見解ではないようで、担当者によって今後の見通しに違いがあるため、今の状態はもうしばらく続きそうです。
躯体材以外に目を向けますと、MDF(木材チップを原料とし樹脂などで成形した板状のもの)も不足しています。MDFは木造建物の内部建具(室内ドアや玄関収納)の基材に使われています。日本国内では海外より原材料を輸入し国内で製造していますが、原材料確保が難しい状況となり、一部メーカーにおいて受注停止措置がとられたため、内部建具が建設現場へ入らない状態となっています。受注停止したメーカーのシェアが高く、他メーカーに置き換え注文が多く来ているとのことで、他メーカーも新規受注の一時停止措置など対応におわれているようです。2021年2月以降に回復とのことですが、昨今の建築ラッシュにより案件数が多く、見通しがたっていません。
コロナ禍の影響は「木」だけではありません。
2021年秋ごろにニュースになった「ウォシュレット」。部品がベトナムで作られており、ロックダウンが行われたことにより遅延が発生するようになりました。通常トイレ部材は発注から1か月もあれば現場へ納品されていたものが、2021年秋ごろに発注をしたものが2022年春以降に納品予定と半年近くかかるという異常事態です。
ウォシュレットだけではありません。
給湯器も同じような運命を辿っています。一般住宅向けでは24号サイズが多く利用されていますが、2021年12月現在、発注をしても納期は未定となっています。「いつ入るか分からない」が答えなのです。
さらに原材料の争奪戦もはじまっています。
2021年12月、石膏ボードが値上がりとなりました。石膏ボードとは断熱・遮音・耐火性に優れ、ほとんどの建築物で使用されています。2018年~2020年にかけて配送代金の値上げや人件費の高騰による値上げはありましたが、2021年12月の値上げは意味合いが異なります。中国において木造建築物の着工数が大幅に増えたこと、先にあげた在宅ワークによるリフォームや新築着工数が増加により、世界的な石膏の取り合いが起きており、安価な原産国だけでは石膏ボードの安定的な供給が難しくなるとの判断から、入手先を増やし絶対数を確保する状態へシフトしています。そのため、原材料が相対的に高額になったことにより、2021年12月から30%の値上げとなりました。
2022年春ごろまでには断熱材の値上げも予告されています。
断熱材も石膏ボードも建設物には多く使用され、1棟における費用の割合が高いため、建設費用に重くのしかかります。
「コロナ禍で・・・」と言えば値上げも遅延も許されるような状態になっている建設業界。今までと違うのは世界的に木造が人気になっているのと、日本へ運ぶ手段が限られていることでしょうか。「J GRADE」という厳格な基準を維持し高品質な建物を安価に提供するのは地震の多い我が国の使命ではありますが、それを追求し続けて選り好みをしてきたツケをコロナ禍の今になって払わされているのかもしれません。また、製造拠点の分散を検討することも今後の課題になるでしょう。1国のロックダウンで日本全国の現場が止まってしまう脆弱さは褒められたものではありません。
2021年は建設資材のあらゆるものが、値上げや遅延、原材料の不足といったマイナス要因が多い1年でした。
2022年は、2025年大阪万博に向けて建築資材の早急の正常化と代替品の開発が祈念されます。